名古屋が支配していたのは、ボールや相手だけでない。“速さ”を身につけた風間グランパスの進化
名古屋グランパスは12日、明治安田生命J1リーグ第11節でホーム・豊田スタジアムに浦和レッズを迎え、2-0で快勝した。個人のスキルアップがチームの成長につながる好循環が見て取れたこの一戦。選手個々のプレー認識、風間八宏監督の言葉から読み取れる、その進化とは。【取材・文=飯尾篤史】
◆完成度の高さを見せた2点目
「立ち上がりから自分たちのリズムでやれたと思います。マテウスが決めたことで試合がさらにうまく回るようになった。(宮原)和也のアシストもそうですが、ペナルティの中の攻略、あるいは、見えているところが増えてきたと感じた前半でした。後半はもっと決定機があったので、そこで決めていれば、もっと楽なゲームになったと思いますが、それはこれからまた伸びていくということで、今日は良い試合だったと思います」
1点目はマテウスの豪快ミドルによって。一方、チームとしての進化、完成度の高さを感じさせたのが、2点目だった。
左サイドでフリーになったガブリエル・シャビエルがクロスを入れると、大外を駆け上がってきた右サイドバックの宮原がファーサイドから頭で折り返し、ジョーが蹴り込んだ。崩しのイメージの共有、プレーの正確さ、いずれも申し分ないものだった。
宮原は今季、相手ペナルティエリア内でプレーする回数が劇的に増えている。
なぜ、決定的なシーンに絡む頻度が増したのか――。
「今までは、自分にそこまで余裕がなかったんですけど、今は自信を持ってやれているし、チームとしても、そこまで持って行けているので、自分もタイミングよく上がれる。相手陣内でサッカーをするシーンが今年は本当に多いので、奪われてもそこで奪い返せているから、その分、自分も攻撃にいけるんです」
風間監督が就任して3年目。個人の成長がチームの枠組みを広げ、広がった枠組みの中で個人がさらに光り輝いている。良いサイクルを迎えている証だろう。
宮原が言うように、奪われてもそこで奪い返せる――即時奪回、前線からのプレスも昨季までとは異なる大きな進化。それにひと役買っているのが、セカンドトップの長谷川アーリアジャスールだ。「迫力を持って行ってくれるので、相手のミスを誘発してくれる」と、ボランチの米本拓司は感謝する。
ただし、それも相手を押し込み、ハーフコートゲームができているからこそ。
風間監督は「攻撃と守備は分けて考えるものではない」とよく言うが、攻撃で押し込めているから、その場で奪い返すことができ、その場で奪い返せるから、押し込み続けられる。良いサイクルはここにも見て取れる。
◆柏木陽介が「速い」と感じた理由
「(負傷欠場した)この3試合を見てイメージしていたけど、そのイメージとは全然違って、より速く感じた。相手のプレッシャーも、パスも、(攻守の)切り替えも」
この試合から復帰した柏木はそう嘆いたが、速く感じた理由は、柏木の試合勘が鈍っていたからだけではないだろう。実際、名古屋はパススピード、判断スピード、攻守の切り替えのスピード、そのどれを取っても速かった。
それにつられるように、浦和のプレースピードも速かった。名古屋のプレッシャーが浦和に焦りを生じさせた面もあったかもしれない。いずれにしても、浦和のプレースピードも速くなり、そして、ミスを連発した。
こうした現象を見て思い出したのは、前節・湘南ベルマーレ戦後の風間監督の言葉だった。一進一退のゲームを振り返り、「システムで考えず、枠組みで考えている。その枠組みをどこに持っていくか。必然的に相手も速くならなければいけない」と言ったのだ。
この浦和戦で名古屋は自分たちのリズムで戦うことができた。名古屋が支配していたのは、ボールや相手だけでない。時間までコントロールしていたわけだ。
17日の金曜夜に行なわれる次節の相手は、現在4位の川崎フロンターレである。言うまでもなく風間監督の古巣であり、昨季完敗を喫した因縁の相手。現在5連勝と調子を上げてきたJ1王者を自分たちの土俵に引きずり込めるか。
「自分たちの力を測れる試合になると思う」と米本が言えば、「圧倒できたら自信がつくと思う。ビビらず、しっかりやりたい」と宮原は力を込めた。次節の川崎F戦は、現在2位の名古屋にとって真価の問われるゲームになる。